形のない形(8)

<章=8>

 回診を終え、慶嗣の病室へと足を運んでいる途中に見覚えのある顔を見かける。「浅野先生。こんにちは」 声をかけようか一瞬迷っていると、先に声をかけられてしまった。こちらも慌てて会釈を返す。 中兼久銀次。一度聞けば忘れられないインパクトのある名前。普段から多くの名前を目にする仕事だが、その中でも中々埋もれない名前の部類に入るだろう。もっとも、慶嗣の友人の名前を忘れるはずもないのだが。「こんにちは。久しぶりだね」「この前、慶嗣のお見舞いに来た時もお顔はお見かけしたんですけどね」

 格好だけを見れば、いかにも近ごろの若者らしい格好をしている彼だが、物腰は柔らかく言葉づかいも落ち着いていて丁寧そのもので、慶嗣の友人ということを差し引いても、俺には好感の持てる人物だ。「声を掛けてくれればよかったのに」「いえ、お忙しそうだったので」

<章=9> 隆弥と慶嗣が付き合い始めたころ。