どうしてなんだろう

「子どもが欲しい」 俺たちのピロートークを打ち破るように、洵は言い放った。腕枕をしている腕に重さを感じる。「は?」「子どもが欲しい」 聞き返すと同じセリフを言う。「何だよ、突然……」「俺らに足りないものだよ」「はぁ?」

「だって、そう思わねぇ? 俺ら、愛し合ってて、一緒に住んでて、セックスもしてる。一途に想い合ってるし」「それが、どうして『子ども』になるのかがわからねぇんだけど……」「愛の結晶だろ? 子どもって」「まぁ、そういう言い方もするな。でもな、愛の結晶って、『男女』にできる子どものことを指すんだぞ。辞書引いてみろ」 俺はなるべく理路整然と言ったつもりだった。

「女だけ子どもが産めてズルイと思ってる男は全国に百万人は下らない。と俺は思ってる」 どこのデータだそれは。「そんな……何の根拠のないことを言われてもな。しかも何気に多くねぇか、それ」「多くねぇよ。潜在的にそう思ってる男は多いはず」「俺は思ったことないんすけど……」 うんざりと言い返す。

「俺が思ってんだから思えよ」 そう言いながら洵は俺の胸を撫でる。「くすぐってぇ」「感じない?」「やった後の男の身体はクールなの。お前もわかるだろ?」「火照った身体がそんなに簡単に醒めたりしないよ……俺は。な、真《しん》」 覆い被さってくる。……色気のある顔すんな、この野郎。

 洵は可愛い。可愛いのにすごい色気がある。ハニーブラウンの髪が幼さを増長させるのか、俺と同い年には見えない。

「誘ってんのか? それは」「んー? どうだろう」 何となくのそういう雰囲気に流され、キスをする。「やるんだったらさ、今度はゴム付けずにやってよ」「なっ、そんなの……、ダメに決まってんだろ」「いいじゃん。生でヤったら子ども生まれるかも……」「それはない」 きっぱり言い放つ。「なんでさー。ちょっとした可能性に賭けてみようよ。チャレンジ精神がなくなったら精神《こころ》が年取ってくんだぜ」「0%に賭けるのをチャレンジ精神とは言わないだろ」「真面目だなー、真は。まぁ、そこがいいんだけどさー」「俺は真面目じゃないよ。石橋を叩いて渡らない臆病者なだけ」 男だろうが女だろうが、セーフセックスは当たり前だろ、と思っている俺は、コンドームなしでのセックスを頑なに拒んでいる。たまにこうやって洵は言い寄ってくるがその誘惑に負けるわけにはいかない。

 言い寄ってくる洵を交わすために、軽くキスをしながら、再び燻ってきた身体を静めるため、覆い被さっている洵を逆に覆い被し、胸の突起を愛撫する。 それは俺たちの行為の始まりを示す合図みたいに、俺はいつもその行為から始める。「んっ」 洵は示し合わせたように艶っぽい声を聞かせる。

「結局はぐらかされた」 また呼吸の乱れたままの洵が非難するような口調で言う。「何が」「だから、子どもが欲しかったのに……」 俺は洵を抱きしめながらため息をつく。「中で出しても男同士じゃ無理だって」「そんなの、わかんないだろ」「あのな。それで男が子ども産めるんなら、もう実例がニュースになるってぇの」「これは、気持ちの問題」 なんかどんどんとずれてきているような気がするが、こういうときに洵を説得するのは無理なので論点をすり替えることにする。

「大体さ、それを言うなら、結婚の方が先じゃないか?」「結婚……」「まぁ、男同士は結婚できないけどな」「できないこと言うなよ」 それはさっきまでの自分の言動を省みた発言か。と思ったがそうは言わず、「できないけど、方法はあるだろ。海外行くとか、養子縁組とか……」

「俺たち、まだ結婚は早いと思うんだ」 もう訳がわからない。「どういうこと?」「だって、親に認めてもらってないし……」「もう親の許しがなくても結婚できる歳だけどな」「できれば認めてほしい」「ま、それはな……」

「俺、……男でゴメンな」 洵……。「今日、何かあったんだな」「……」「無理には訊かないけど。話した方が楽なら話せ」「いい……。話すと嫌われる」「嫌わないよ。……でも、男でゴメンはお互いさまだからな」 洵の目が少し赤くなっているのがわかったがそれは指摘しないことにする。言うと絶対に泣かないから。コイツは。 泣いて気分が晴れるなら泣かせてやりたい。それくらいの度量はある男でありたいとずっと思ってる。

 明日朝も泣いていたなら、じっくり話を聞いてやろう。多少無理やりにでも。そう思う。

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